事例検討会
週1で学生で集まって、判例の検討会をしています。
対象はできるだけ新しい判例を取り上げています。
今日は、最判平成17年1月27日民集59巻1号200頁の事例をテーマに議論しました。
弁済による代位の判例です。
備忘録として今日のポイントを記録しておきたいと思います。
H17年判決の要旨
不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し、そのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権にかかる残債務全額につき代位弁済した場合において、当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには、債権者と保証人は、両者間に前記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り、前記売却代金につき、債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受ける。
この判例は、
債権の一部代位弁済者は債権者との関係では、配当で債権者に劣後して扱われる
としています。
そして、この判決との関係で問題となるのは、最判昭和62年4月23日民集未搭載。
債権の一部について代位弁済がされた場合、右債権を被担保債権とする抵当権の実行による売却代金の配当については、債権者は代位弁済者に優先するものと解すべきであるから、債権者は、代位弁済者の求償権が消滅したと否とにかかわらず、自己の有する残債権額および被担保債権額の限度において後順位抵当権者に優先して売却代金の交付を受けることができる。
この判決は、一部の債権について全額した代位弁済者は債権者と平等に扱われる、としています。
両者では、
弁済による代位をした場合に債権者との関係で劣後してしか配当を受けることができないか、
と言う点に違いがあります。
この一見矛盾したように見える判決を説明する論理として、
〈1説〉
S62年判決で問題となっている物的担保は根抵当権だったが、H17年判決では抵当権にすぎない。
両者では債権者の期待が違うのではないか。
後者では極度額の範囲内では確実に債権回収ができるという期待が「比較的」強い。
〈2説〉
H17年判決のように、何個もの債権のうちの一部の債権を保証するような場合にS62年判決と同じ枠組みで処理しようとすると当初の保証人などの期待が害されるのではないか。
すなわち、保証人としては、当初は
「保証の対象となっている債権についてのみ弁済すれば全部代位権行使できるよね」
と思っていたのに、
その後に複数の債権がついてしまい、さらに、一部の債権=全債権の一部として一部弁済の場合と同じように扱うと、債権者に劣後する、という結果になる。
そこで、債権の一部についてのみ保証しようとした者の期待を保護しようとしているのではないか。
〈3説〉
そしてお約束、1と2の折衷的見解
の3つがあるように思います。
事例検討会では、1が有力説で、
3説に立っている立場の人も1説に同調しながらもいたように思います。
ちなみに、僕は2説で浮いていました(笑)
確かに1説に立てば論理的にスッキリするのですが、
根抵当権でなく、抵当権であっても「被担保債権について全額回収できる」という期待をもっているに違いないので、1の理由付けとしてはいまいち分かりづらいものがあります。
期待の「質」の問題でしょうか。いずれにしろ、抽象論では分からないですね。
これに関連して、福岡高裁で判決が出ています。
福岡高裁平成19年3月15日金商1267号58頁以下
根抵当権に基づく不動産競売事件において作成された配当表に関し、複数の被担保債権のうち1個についての連帯保証人であり、これを元本の確定後に代位弁済した控訴人が、同じく元本の確定後に根抵当権者(債権者)から他の被担保債権を譲り受けた被控訴人に対し、債権者が代位弁済者に優先して弁済を受けられることを前提に作成された配当表における被控訴人に対する配当実施額の変更を求めた事案で、控訴人は、本件各根抵当権の被担保債権の1個について連帯保証人となり、その元本の確定後に債権者であったA銀行に対して、残債務全額を代位弁済したものであり、他方、被控訴人は、控訴人が連帯保証したものと異なる債権をその元本の確定後に譲り受けてA銀行の地位を承継した者であるから、売却代金の配当について、被控訴人は、控訴人に優先して配当を受けることができるとした事例。
平成17年判決の根抵当権ver.です。
こちらは案分比例での配当を否定しており、結論のみならず理由付けも上記1説と同じようです。